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文学・コルセット


コルセットと文学

『O嬢の物語抜粋 』

(ポーリーヌ・レアージュ作渋澤龍彦訳)
”彼女たちは、足の隠れるほど長い、ふんわりとふくらんだスカートをはき、胸をぐっと突き出させるほど締めつけた、全面を紐とホックで留めるコルセットをつけ、襟ぐりと、肘までの長さの袖の先には、レース飾りをつけていた。”(P33)”Oの衣装は、二人の婦人の衣装と同じようなものだった。ウエストをきつく締めつける張鋼で張ったコルセットと、糊のきいた寒冷紗のペチコートの上に、ふんわりしたスカートの長いドレスを着るのであったが、ドレスの胴部は、コルセットで持ちあがった乳房をわずかにレースでおおうのみで、ほとんど乳房をむき出しにしていた。ペチコートは白、コルセットと繻子のドレスは海緑色、レースは白であった。”(P43)”「わたしはあなたのお化粧と、コルセットの紐を締めに来てあげますから」”(P59)
”ジャンヌは、緑色の繻子のコルセットと、白いペチコートと、ドレスと、緑色のスリッパとを取りあげ、Oのコルセットの前のホックを留めると、うしろにまわってコルセットの紐を締めはじめた。コルセットは細腰時代のそれのように、きつく張鋼で張った、細長くかたいもので、乳房のおさまる部分には襠(まち)がついていた。締めつければ締めつけるほど、乳房は押しあげられ、下から襠に支えられて、乳首がいよいよ突き出した。同時にウエストが締めつけられ、そのため腹がぐっと張り出し、腰が極端に弓なりになることになった。ふしぎなことに、この装具はきわめて着心地よく、それほど苦しくはなかった。身体はまっすぐに突っ張っていたが、コルセットに包まれていない部分はむしろ自由であり、のびのびと解放されているように感じられた。二つの部分の対照のためかとも思われたが、理由ははっきりわからなかった。ふんわりしたスカートを、首の付け根から乳首まで、胸ぜんたいを大きく梯形に切りこんだ襟とは、これを着る娘を保護するためというよりは、むしろ挑発するため、誇示するための装具のように見えた。”(P66) 
”ジャンヌがコルセットの紐を二重結びに結んでしまうと、Oはベッドの上のドレスを手にとった。それはワンピースで、スカートには取り替えのきく裏地のようなペチコートが重なり、また、前で交差し背中で結んである胸飾りは、コルセットの締め加減によって、微妙な胸の曲線を自由に出せるように工夫してあった。ジャンヌはコルセットをたいそうきつく締めた。Oは、あけ放しになっていたドアから、浴室の鏡に映る自分の姿をながめた。鏡に映った彼女の姿は、輪骨でふくらませたように腰のまわりに緑色の繻子を氾濫させ、そのなかに小さく埋まっている姿だった。”(P66~P67)
”ガードルは、どれも考慮の余地はなかった。だが一つだけ、バラ色の綾織りサテンの細腰スタイルのものは、背中で紐をしめるようになっていて、ロワッシーで彼女は着ていたコルセットにそっくりだったので、一緒に捨てるのが惜しいような気がした。”(P94)
着ている服は、厚地の綾織り絹の堂々たるドレスで、中世の花嫁衣裳のように赤く、裾はたっぷり足まであり、腰はふくらみ、ウエストはぴったり締まり、胸の線をくっきり浮き出させている。それはデザイナーがショー・ドレスと呼ぶ種類のもので、誰も着て歩けないような服だった。思いきり踵の高いサンダルも、やはり赤い絹でできていた。ジャクリーヌがこのドレスを着、このサンダルをはき、何やら仮面を思わせるこのベールをかぶり、Oの目の前にいるあいだ、Oはひとり心のなかで、このモデルを補足し修正していた。手を加える必要はほとんどなかった。ウエストをもっと締めつけ、乳房をもっと突き出させさえすれば、ーそれは、ロワッシーのドレスとそっくり同じだった。(P98)           
 

 

『白昼艶夢抜粋』

朝山 蜻一 作

わたくしの身体の寸法を計ったり、ご自分で針を持ったりして、あなたは美しいコルセットを作ってくださいました。中に鯨のひげを入れた丈夫な帆布を芯にして、肌ざわりのよい綾羽二重で覆った驚くほど華奢なものを、幾日もかかって、お作りになりました。わたくしにこれが着られるでしょうか、と云うと、あなたは着られるとも、お前の身体はマシマロのようにやわらかいから、どんな形にでもなることが出来るんだ、さあ、これを身につけて、僕を気狂いのようにこばせておくれ、と云われた時、わたくしは嬉しいような、恐ろしいような気がしました。
 だって、それは普通の人間の身体では、想像も出来ない美しい曲線を持った美術品のように高貴なものでしたが、触ると、はがねのように堅く強いのですもの。あなたは、やさしくわたくしを抱きしめて接吻し、さあ僕が着せてあげようと云って、わたくしの着物をお脱がせになりました。わたくしは恥かしさで何も考えることが出来ませんでした。はじめ軽くコルセットが肌にふれたとき、わたくしは何とも云えない戦慄を全身に感じましたが、あなたが締紐(しめひも)を色々に結ばれて、さあこれでいい、と云われた時わたくしは、自分の身体が自分の身体とは思えぬほど、堅い甲羅の中へ閉じ籠められてしまった事を知りました。
 わたくしは、あなたにしがみついたまま手を離すこともできませんでした。わたくし、息を吸うことも、吐くことも出来ませんわ。そう云って、わたくしが息をつめたまま、あなたを見ると、あなたは上気した眼で、じっと、わたくしの身体を見つめながら、笑っておいでになるのです。わたくし、はじめはあなたの一時の戯れだと思っておりましたので、じっとこらえていられたのですわ。横になると楽になるよ。あなたは意地の悪い眼つきで、そうおっしゃって、コルセットで固められた裸のわたくしを抱いて、ベッドに寝かせて下さいました。それからわたくしが恐ろしく思ったほど熱狂的に、気が遠くなるほど、いつまでも愛撫が続きました。
 わたくしは、とても嬉しかったけれど、それは苦しい歓びでした。ねえ、もういいでしょう? 解いて下さらない? 苦しいわ、そうお願いすると、あなたは疲れた眼を不思議そうに光らせ乍ら解く必要なんか、ないじゃないか。これがお前の身体なんだよ。僕が夢に描いていた天使のように美しい女の身体なんだよ。と云われました。わたくしは、これがあなたの戯れではなく、必死な愛撫であることを、やっと身を以って知ったのでした。それに、一つはわたくし自身嬉しいことでもありました。さすがにあなたが、わたくしを選んだだけあって、わたくしはどんな華奢な女のひとと比べても負けないほどほっそりとしている上に、固い骨があるとは思えない軟かい身体をしていたのですもの。
 それが更に妖しいほど曲線を与えられたのだと思うと、何とも云えぬ官能的な満足を感じました。苦しかった幾日かがたつと、わたくしの身体も馴れて、そのコルセットの形の通りに変ってきました。苦痛は去り、堅い殻に閉じ籠められ締めつけられるわたくしのからだは昼も夜も、しびれるような快感を覚える様になりました。あなたは毎日、注意深くわたくしを観察していて、わたくしの身体が馴れて楽になると、追いつめるようにコルセットの紐を締め上げてゆくのでした。わたくしの身体は、段々狭く細くなってゆき、両方の親指と人指指で簡単に環を作れるほどになりました。あなたはそれはどんなに喜こばれたでしょう。感嘆して眺め、さすり、限りない愛情でわたくしを愛して下さいました。
 しかしあなたは、紐を締めることは忘れず少しでも楽になると、更に紐を締め、コルセットの胴廻りを狭くしてゆくのでした。あなたは、何処までわたくしをつめたら満足なさるでしょう。どれほど身体が細く奇形になったら、おやめになるのでしょう。そう思った時、はじめてあなたの執拗な追求の怖ろしさを知り、わたくしは激しい恐怖に襲われたのでした。わたくしの身体にも限りがあります。わたくしにも血の通っている命があります。あなたの求める肉体の追求は、いま、わたくしの生命のともしびの、すぐ前に迫っていることを知りました。わたくしは肉体的苦しみでなく、精神的の苦しみで気が狂いそうになりました。もういや、もういや、勘忍してコルセットを脱がせて――。
 わたくし息が止まってしまいます。わたくしは、必死あなたにお願いしたのに、あなたはそれには返事をしないで一分でも二分でも紐をつめることばかり夢中になっていらっしゃいました。(「白昼艶夢」より)